宅配便の宛名

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何年か前、仕事の関係で京都のとあるご夫婦に取材をすることになり僕も同行した。

同行しただけで特別に何かした訳ではないのだけれど、有意義な話も聞けてご夫婦も素敵でとても楽しくいい時間を過ごせた。

そのアウトプットも素晴らしい物が出来て制作してくれた方々に感謝したものだ。

さて、その取材からひと月後くらいの話だ。

そのご夫婦は僕宛にちょっとした和菓子を贈ってくださった。

律儀な心遣いに感動を覚え、とても嬉しかったのを覚えている。

しかし、ふと包み紙に貼り付いている宅配伝票を見て息を飲んだ。

 

宛名が僕の名前でなく親父の名前になっていたからだ。

 

訳が分からなかった。親父は何年か前に亡くなっている。

どういうことだろうか。こうなった理由が全く検討つかない。

それでもなんとか理屈をつけようと可能性を考えてみる。

まず、単純に名前を書き間違えた可能性。ちなみに僕も親父も名前は漢字一文字だ。

しかし確率的に凄く低い。というかあり得ないだろう。無数にある漢字の中でピンポイントで親父の名前に間違えるなんて。

 

次に何かしらの理由で送り主は僕の親父の事を実は知っていて、それで間違えた可能性。

親父が京都に何かしら縁があったなんて聞いた事がない。取材の時に結構色んな話はしたけど僕の親父の話など込み入った事はもちろん話しているはずが無い。

 

最後に兄が間接的に関係しているかもしれない可能性。これが一番ありえると思った。

なぜなら兄は一時期、京都で働いていて、その時期、実家宛にお菓子を贈った事があったと聞いていたからだ。

実は今回のお店と兄が実家にお菓子を贈ったときのお店が同じで、発送リストなどに過去のデータが残っており、それが何かしらのミスで今回反映されてしまった。論理的にはあってもおかしくはない。

その和菓子屋さんの名前を覚えていなかったので、兄に聞いてみた。しかしやはり全く違う和菓子屋さんだった。

 

もうどうしようもなくなった僕は送り主に直接聞いてみる事にした。

おそらく送り主にこの話を伝えると僕の知りたい事(なぜ親父の名前になっていたのか)とは別の誤解を与える可能性、つまり「僕が名前を間違えられているという抗議」の意味で連絡したと思われるのは分かっていた。変わった名前なので間違えられる事は頻繁にあるし、そんな事は本当にどうでもいい。

しかしどうしてもスッキリさせておかないと気が済まなかったのだ。

電話をかけ、取材のお礼、そして和菓子のお礼とともに「ところで…実は宛名が…」と切り出してみた。

やはり相手の方は「名前を間違えるなんて失礼をしてしまった」という勘違いをしてしまい、しきりにお詫びを述べる。

「いや、違うんです。そういう事ではなく、かくかくしかじかで…」と事の説明をしたところやっと分かっていただいた。

しかしそれでも送り主の返答は名前を間違えた覚えはもちろんなく、親父の事を知っているはずも無く、という事が分かっただけで新しい事実が判明する訳ではなかった。

これで考えうる限り、理屈的な説明がつく可能性はなくなった。

 

その後、親父が枕元に立ち、気の利いた格言を言い放ったとか不思議な事が起こったなどの後日談は全くない。

結局、なぜ宛名が親父の名前だったのかは今でも謎のままだ。

 

その宅配伝票は机の引き出しに大事にしまっていたが、いつの間にか消えていた。

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