洗濯機はお静かに。

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大阪にいた時、二年くらいちょっとだけファンキーな所に住んでいた。

離婚したばかりで心が荒んでいた時期であったこともあり、住むとこなんてどうでも良いと投げやりに契約した部屋。

条件は家賃が安くて職場に近い。それだけ。

その結果、ラブホ街の入り口にある無骨なアパートの二階になった。色あせた畳にドラえもんが住んでそうな押し入れ。

一応風呂はあったが水しか出ない。お風呂から出る時、足があたるくらい浴槽と便器がキスしそうなユニットバス。オシャレに言ってすいません。オシャレついでに言うと床もタイル貼りだ。昭和オシャレ。

浴槽の横には装置が付いている。これはバランス釜というらしい。僕はバランス釜という物を知らなかったので入居初日、

「・・・これ、どうやって使うんですか?」

と不動産屋さんに聞いたのを覚えている。バランス釜ってコツがいるんだよ。ガスコンロを付けるイメージでつまみを離すタイミングが肝心。

そしてこの部屋、ベランダとなるスペースもないのでもちろん洗濯機も置けない。近くのコインランドリーを利用し、屋上にある共同の物干を使うしかなかった。

快適な3DKの新築マンションからフリーフォールのようなこの落差。でも正直そんなに気にはならなかった。なぜか平気なのだ。住居に関してはあまりこだわりがない。今でもあの部屋に戻れと言われてもまあいっかですむと思う。

風呂は頭を洗うのに困る。特に冬。水しか出ないし、シャワーも無いからだ。考えた結果、頭は最後の最後に風呂につかったまま洗い、そのあと風呂にもぐって流す、という画期的な方法で解決した。すべてが浴槽の中だけで完結する。

唯一これはまいったな、というのは洗濯だった。

男の一人暮らしなので洗濯物は少ない。それでも二日に一回くらいはコインランドリーに行かないとならない。それがどうにもめんどくさくてかなわなかった。

コインランドリーまで徒歩で5分くらい。マンガや映画でよくある雑誌が置いてあるような空間ではなく、狭い空間に何台か洗濯機と乾燥機が並んでいるだけのストイックなコインランドリー。

洗濯ドラムの蓋をあけると取り忘れのパンティーが・・・。ちょうど手に持っていた時、慌てて取りにきたあの子に誤解されて頬を張られるが、その後なんとか誤解もとけそこから始まるラプソディ・・・なんて事はなかった。

椅子すら置いてないので洗濯を回した後は待つ訳にもいかず一旦家に帰ることになる。

面倒臭いのだ。一旦帰るの。

そしてまたその時間が微妙で。

これが二時間くらいかかろうものなら映画の一本でも見て戻ればちょうど良い。しかし実際40分くらいだ。コインランドリーから家まで5分。部屋で2、30分時間をつぶしてまたコインランドリーに戻る。

ああ、やっぱり面倒なことこの上ない。

しばらくはなんとか我慢していたが堪え兼ねてネットで購入した物がこれだった。

小型洗濯機。一応電動。プラスチック製。

ちょっとしたバケツくらいの大きさである。プラスチックで安っぽいが決してバケツではない。この小ささなら風呂場でなんとか使える。排水も心配ない。

シンクの排水溝にはまっているカゴのような物が仕込まれているのでなんと脱水までできる優れもの!

胸を高鳴らして宅急便のお兄さんを待ちわび、届いた時すごく嬉しかったんだ。

まるで憧れのおもちゃが届いた子供のような気持ちだったのを覚えている。

ああ、これで煩わしいコインランドリー生活ともおさらばなのだ!

善は急げ。チャンスの女神は後ろ髪だけ。早速洗濯開始だ。

わくわくしながらむりやり電源をひっぱてきて洗濯物を放り込む。

スイッチオン!

お、おお。んんん。思ったより揺れてるな。サイズが小さく軽いから余計なのかもしれないな。

なんとか「洗い」までが無事に終わった。

水を入れ替え続いて「すすぎ」

うん。順調、順調。やっぱ買って良かった!

 

さあ、締めは脱水だ。

スイッチオン!

 

 

 

 

 

 

 

お、おお!?さらに揺れるのね。君。

興が乗ってきたのか洗濯機は一層荒ぶる。

まるでその姿ははげしく身体を揺らすライブステージのようだ。

ステージと客席はさらに一体となり熱狂と興奮が目に見えるように渦巻いている。

音の重圧と激しい照明が高ぶる気持ちのリミットを外してくる。汗だくでステージを見つめる彼女の横顔が眩しい。

ラストは大合唱必至のあの曲。マイクを観客に向けて煽るボーカルに必至でついていこうとオーディエンスのボルテージは最高潮に達した。

 

うるせえー!!!

下の階から怒鳴り声。

棒のようなものでドンドンと突き上げられているのが分かる。

気が短い人だなあ。これぐらいで・・・

 

やっぱりうるせえー!!!

これは僕の心の声であり、下の階に対するコール&レスポンス。

 

 

 

 

 

短い付き合いだった。

これ以降、こいつはドラえもん代わりに押し入れに住む事になった。

 

 

 

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