清掃バイトの話

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若い頃少しだけ清掃のバイトに着いていた事がある。

オフィスや店舗などの床や窓を綺麗にしていた。コンビニで見た事があるかもしれないイソギンチャクのような機械で床を掃除したり、窓をワイパーのような物でピカピカにするあれだ。

清掃の仕事は基本的に夜や土日になる。オフィスは誰もいない休日や社員が帰った後、店舗の場合は閉店後に行うからだ。

社員のOさんがいて、その下に僕を含めバイトが何人か。バイトメンバーは日によって変わる。シフトなんて物はなく前日に「明日行ける?」と電話がかかってくる日雇いタイプのバイトだ。

このバイトで得た物というと特には思いつかないが、なぜかスジがいいと僕はOさんに良く褒められていた。

真面目にやっていたという意識はあまりない。もしかしたら窓掃除の時や床を長いワイパーのような物で綺麗にする時、ベストキッドみたいだなと思っていたのが良かったのかもしれない。

ワックスかける。ワックス拭く。

右腕、左腕、それぞれの腕を扇形に動かす。僕はダニエル君だ。OさんはMrミヤギとはほど遠い容姿だったがあの作業は結構楽しかった。

その経験があるので僕はいつ正拳が飛んできてもキレイに弾く自信がある。嘘です。正拳とかやめてください。

まあ、そんなある夜の話だ。

夜のデパート。

その日の現場は二階建てのデパートだった。

デパートと言っても百貨店までの規模ではない。食品売り場に婦人服やおもちゃ屋さんなどが取って付けたように入っているスーパーに毛が生えたような所だった。

この日のメンバーはOさん、僕、バイトのY君、バイトのWさん。Y君は現役のヤンキーで基本的にいい奴だったが常にふわふわした返事しかしない奴だった。シンナーでもやっていたのかもしれない。

一方Wさんは清掃歴が長い女性で近いうちに独立を決めていたようなしっかりとした人で、頼れるお姉さんという感じだった。

中途半端なデパートといえどもそれなりに広さがある。清掃は一階フロアから始まった。

Oさんが洗剤を付けたイソギンチャクで床を綺麗にしたあと、僕とY君がその後をついていく。これも窓掃除と同じように長い柄についたワイパーのようなものでぬぐっていくのだ。なかなか楽しいが結構大変だ。

不穏。

それに気づいたのはやっと一階の床が終わりかけた時だ。

一階の床が終われば続いて二階の清掃となる。ということは当然、清掃したところを踏まないようにするため階段の前を最後に掃除する事になる。

声が聞こえるのだ。

階段を通して二階フロアから子供がキャッキャとはしゃぐ声。

ずっと聞こえる訳ではない。

途切れ途切れかすかに聞こえるか聞こえないくらいのボリュームで耳に入る。

最初は気のせいだと思っていた。思い込んでいた。

しかしどうにも聞こえてきてしまうのだ。

時刻は既に22時を越えた頃。こんな閉店後にデパートの人もましてや子供なんている訳がない。

小さな子供が三輪車に乗ってデパート内をニコニコと駆け回っているイメージをする。これはシャイニングのせいだ。

どう考えても気のせいではないし、ついに僕はWさんに聞いてみた。

 

Wさんの顔が引きつった。

「やっぱり・・・、私だけ聞こえるんじゃないんやな・・・」

Wさんも子供の声を聞いていた。気のせいだと思いたかったらしい。しかし僕が言ってしまったので気のせいではなかった事が確定してしまった。

ちなみにY君には聞こえていなかったらしい。というかOさんの指示もまともに聞いていないのでさっきからよく怒られていた。

 

僕たちバイトが手を休めて集まっていると、どうした?とOさんがやってきた。

「二階から子供の声が・・・するんです・・・」

「んなわけあるかないな〜。ははっ」

・・・キャッキャッ。

皆が固まる。

「・・・んん〜、ちょっと見てくるわ」

その勇気は社員の責任感ゆえか。Oさんが二階へ上がって行った。

僕とWさんは青い顔をして待っていた。Y君はなぜかテンションがあがり楽しそうだった。

しばらくしてOさんが戻ってきた。

「おまえら、ちょっと上がってみ」

促された僕らはおどおどとしながら階段を上っていった。

 

・・・段々子供の声がハッキリ聞こえてくる。

 

 

・・・僕らの目に飛び込んできたのは・・・

 

 

プリント倶楽部。

こいつが声の犯人だった。

おもちゃ屋さんに設置してあるプリクラの電源が入ったままだったのだ。一定の周期で甲高い女の子の声がプリクラを撮ろうと呼びかけている。

皆、我慢できなくなって同時に笑い出した。

幽霊の正体みたり枯れお花。

確かにプリクラはお花畑なのかもしれない。

この後無事にデパートの清掃は終わった。駐車場の自販機でコーヒーを飲みながら今日の労をねぎらう。皆なんだか今日の出来事がおかしくてまだ笑っていた。

その時、Y君が

「あれ?今日バイトもう一人いましたよね?」

などと言おうものならこの話にもキレイにオチが付くのだがそんな事は無かった。そんなものだ。

このバイトは定期的に入れなく収入が少なかったのですぐにやめてしまった。

深夜コンビニに行って清掃しているのを見るたびこの出来事を思い出す。