誰でも自分だけの落ち着くお店ってのがあるのではないだろうか。
それは座り心地のいいソファがあり、BGMもきっちり考えられたカフェだったり、薄暗い個室の和ダイニングだったりするのだろうか。
僕の場合はそんなオシャレさとは正反対の基準となる。
・ほどよく店が汚い。
・TVがある。
・いつ行っても客がまばら。
・隣のお客さんとの距離に余裕がある
・ベトッとしたマンガがある。
・しかもそのマンガめっちゃ古い。
といった具合で、回転率という言葉を完全に無視したような店がなんだか安心するのだ。
思えばこれは初めて一人暮らしをした大阪のお店にルーツがあるのかもしれない。
そこは、いかにもな中華料理屋で、いつ行ってもほぼお客さんはおらず白いランニング姿の親父がぼーとTVを見ているようなお店だった。
入店すると慌てて立ち上がり、なんでも頼んでくれ!という気合いに満ちあふれる。急にどうした。
しかしこのお店で感動した事が二つある。
一つは唐揚げを注文をし、出された物を見て度肝を抜かした事。
巨大なトンカツのような唐揚げが出てきたのだ。その脇には大量のキャベツと盛り塩のようになった塩と胡椒。
僕の中の唐揚げという物は適度な大きさにぶつ切りされたもの。その概念を吹っ飛ばしてくれた功績はでかい。
ちなみに味は無味だ。
塩と胡椒がないととても食べきれないであろう。下味という言葉は存在しない。衣がついたでかい鶏肉だ。
もう一つはチャーハンを頼んだ時だ。使いこなされた中華鍋が勢い良く振られ、おたまがジャッジャッと音を鳴らす。
その時だ。鍋の前に置かれたでかい缶の調味料におたまをざくっと突っ込んだ。分量など計らずとも分かるってことか。
今思うと中華だと普通にみかける気がするが、若き僕は「すげえ!こいつは本物の料理人だあ!」と感動したのである。
ちなみに味はやたら塩辛い。
別の日に食べてもやっぱり辛い。味見という事をした事がないのかもしれないな。
しかし、居心地がいいのでよく通っていた。
次のチルアウトできるお店はおかゆが食べれる定食屋さんだった。会社の近くに住んでいた当時よくお世話になった。
ここはそんなに汚くはなかったがTVとマンガのコンボはきっちり抑えていた。
メニューの種類がやたら豊富で美味そうなやつはかたっぱしから制覇していった。ここは実際安くて美味しかった。
よくタクシーの運転手さんが寄っていたので味は信頼できる店だし、実際お客さんも多かった。
ある日僕はひどい熱を出し、会社を早退してよたよたと自転車を漕いでいた。料理を作るのも無理だったが何か食べないといけないと思ってこのお店で初めておかゆを食べた。おかゆがレギュラーでメニューにあったのである。
そのおかゆはとても味わい深く、食べて帰ってバタンと寝たら熱は引いていた。
そのお店は冬になると粕汁がメニューに加わる。当時の僕には粕汁なんてあまり美味しい物ではないという刷り込みがあった。
しかし他の席の人がやたら粕汁を注文しているのが気になり僕も頼んでみた。目から鱗が落ちる。粕汁ってこんなに美味かったのか。
今の寒い時期になると粕汁を食べたくなる。
しかしあのお店の他に粕汁が食べられるお店を僕は今も知らない。
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