美容室は緊張する

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美容室とオシャレな服屋は緊張してどうもいけない。

店員さんのオシャレオーラに身体が溶けてしまう。実際、異常に変な汗をかく。

過去に何を血迷ったかユナイテッドアローズなるセレクトショップに入って二十秒で店を出た事は立派なトラウマだ。

服はネットでどうにでもなるからいいのだけど、美容室はそうもいかない。月に一度はいかないと髪圧が大変な事になる。

慣れてしまえばどうって事ないが初めて行く美容室はかなり気合いが必要だ。

二十代前半。そんな小心ゆえに失敗した話だ。

ノスタルジック美容室

その美容室に目をつけたのは理由があった。

当時、いきつけの美容室がなく、新規開拓をしていた。

近所にいくつか美容室はあった。しかしどこもオシャレすぎて到底入れる雰囲気ではない。壁が白い上に照明も白いなんてもう目がつぶれる。

しかし髪は切らないといけない。消去法で選んだのはとある美容室だった。

古く茶色いレンガがノスタルジック。二階の窓に貼られた○○美容室というカッティングシール。薄暗い階段。外から見えるポスターのモデルは昭和の匂いしかしない。

きっとここは年配の方が一人で細々とやっている美容室に違いない。

なによりオシャレさを一切感じさせないお店の外観が決め手になった。ここがスナックと言われても全く驚かないだろう。そう、スナックという言葉が一番しっくりくるな。

だけどそれがちょうどいい。ここなら緊張せず僕も気持ちよく髪を切ってもらえるはずだ。

それでも初回のお店はやはり緊張する。様子を伺うようにおそるおそる二階に上がる。

 

店の入り口にそびえる門松。季節は夏である。

生物としての本能でヤバさを感じた。全然ちょうどよくなかった。やっぱりスナックなのかも知れない。

「その先は行っちゃなんねえ・・・」長老の声が聞こえてきそう。

このままそっと階段を降りようとしたその時、カランカランと鈴が鳴りドアが開く。

「あら、お客さ〜ん?」

ボリュームのあるソバージュに濃い化粧の女性。見た感じ50歳くらいか。このとき頭に浮かんだ言葉はマルコシアスバンプ。

ちょうど昼食にでも出るところだったのだろうか。バッチリ鉢合わせてしまった。

階段まで上がっといて断れるわけもなく、店内に入った。

狭い室内。タオル会社の名前が入ったカレンダー。使い古されたシャンプー台。窓際に引っ掛けられたプラスチックの物干にはピンクのタオルが干されている。

店内は予想通りに昭和漂う雰囲気だったが、スナックではないことに一応の安心はした。

「こんな若い子が来てくれるなんて初めてかも〜」

やたら語尾がのびる人だった。

椅子に座り、マントのような物を巻かれた時に覚悟を決めた。

でもこれは逆にあたりかもしれない。ほら、その証拠に僕は全く緊張していない。

どうせすぐ伸びるからと技術にこだわりもない。

「どんな風に切る〜?」

「あっ、どうしようかな・・・」

だいたいいつもそうなのだが、何も考えてなかった。

「・・・このまま短くしてください」

きっとこういうふわっとしたオーダーは困るのだろうな。

しかし僕の髪を触りながら、放った言葉は

「ん〜、パーマいっとく〜?」

日本語が伝わらなかったみたいだ。

「い、いやパーマあてれるほど長くないし無理ですよっ!それに会社的にパーマとかちょっと・・・」

「ん〜、このくらい長さがあれば大丈夫よ〜。それにちょっとあてると髪も落ち着くし楽よ〜。黒いままだったらいんじゃない〜」

パーマをあてる。

思ってもみなかった提案に驚いた。パーマって長さがないとかけられないものだと思いこんでた。

もしかしてこの人はめっちゃ凄い技術をもっているのかもしれない。かつては名だたる名店で腕を振るっていたのかもしれない。こんなお店(失礼)でゆっくり引退後を過ごしているだけかもしれない。

「男前だしパーマかけるともっと男らしくなるわよ〜」

「じゃ、じゃあそれで・・・」

マジックだ。きっと今ラッセンの絵を買えと言われたらサインしてる。

「OK。じゃあアイパーかけるわね〜」

「アイパー?アイパーって?」

アイパー何かよく分からなかったが、この時点では信頼しきっていたので特に気にしなかった。

少しずつ髪を挟まれ巻かれていく。なるほど。アイパーってこうやってやるのか。細かい作業に時間がすぎていく。

「はい。おつかれさま〜」

やっと終わったらしい。

 

鏡に映ったのは・・・

 

 

 

工業哀歌バレーボーイズ。

えっ?マジか。これサングラス必須のやつじゃない?

確か中学の時のヤンキーの人がこんな髪型にしてたよ。そういやその時期アイパーって言葉を耳にした事があったような・・・。

別に美容師の人が悪い訳ではない。

僕があまりにも似合わなすぎただけだなのだ。

意外すぎる結果に胸がドキドキした。恋してたのかもしれない。

そしてパーマなのでとても高い金額を言われ精神に追い打ちをかけられる。

ふらふらとしながら階段を降りる僕。カランカランと鈴がなりドアが開く。

「また来てね〜」

その声は僕のくりくりの髪に吸い込まれて消えていった。

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