押し入れで猫が子供を産んだ話

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僕の中で断捨離ブームがきているので写真を整理していた。

切り取られた過去が蘇り、懐かしさとか恥ずかしさとかムズムズする感情を覚えながらもさくさくと写真を捨てていった。

その中に手が止まった写真があった。それがこの猫の写真である。

 

僕が18歳の時。

高校を卒業して大阪の専門学校に入り、その一年目の夏休みの事。

休みの間、まるまる実家に帰省して、地元の友達と遊んだり女の子と楽しくやっていたりとぶらぶら過ごしていた。アイスが溶けるようにグダグダと暑い日々を消費していただけだ。

僕は二階にあったかつての自分の部屋で寝ていたのだが、ある朝、下がばたばたと騒がしい。

なんだどうしたと一階に降りると押し入れに猫がいた。

兄の部屋の押し入れの中で猫が目だけをこちらに向けてどうどうと佇んでいる。

実家では猫を飼っていない。

正直ビックリはしたが、ついに・・・という気持ちもあった。

数日前から猫が家にやってくるようになっていた。野良猫らしく目つきの鋭い三毛猫だ。

その猫はお腹が大きく、誰が見てもすぐに妊娠しているのだと分かった。

この猫、野良猫なのに気づいたら自然に家に入ってくるようになっていた。

これは、兄貴や父親がこっそり窓や玄関を開けて招き入れていたからだ。

決して猫の方から甘えてくる訳ではないが、触っても嫌がりはしない。しかしやはり野良育ちという事が分かっているので僕ら家族も必要以上に構ったりしなかった。

僕らは猫がいる日常というものを物珍しく楽しんでいたが、うちは母親はなぜか猫嫌いで、家の中に猫がいるのを見つけると追い出すという行為を繰り返していた。

その猫がとうとう子供を産んだらしい。押し入れの中で。

子供が産まれる前に兄が敷いたであろうバスタオルが猫の下に敷いてある。

兄は産気づいた猫に気づいて一番早くケアしていたのかもしれない。

子猫は三匹か四匹いたと思う。まだ目もあいていない子猫はみゅうみゅうと弱々しく泣いていた。

親の猫は一仕事終えて、疲れてはいるが誇らしげな顔をしていたような記憶がある。

それからはさすがの猫嫌いの母親も観念したのかミルクを用意するなど、かいがいしく世話をしていた。なぜ猫嫌いなのかは不明だったが本当は好きだったのかもしれない。

当時の僕がこの出来事に対してどう思ったかは正直覚えていない。

しかし写真を見つけて今思い返してみるとこの母猫の強さと判断に軽い衝撃を感じる。

きっとこの母猫なりに外で産むのは危険だと感じたのだろう。そんな時に人間の家にやってきて安全な場所で子供を産む。野良猫だから人間に対する警戒心なんて半端無く強いはずだ。むしろ人間なんて敵だ、くらいに思っているのではないか。しかしそんな事おかまいなしに人間の住む家に頼ってきた。

写真を見ながら大切な事は何か。その時にどう行動するか。プライドのような物を捨てる事が出来る物なのだとこの母猫の行為に考えさせられる。

 

そして僕はなぜかその先の事を全く覚えていない。この猫の写真を撮った事すらも覚えがない。名前もついていたような気もするが全く思い出せない。

子猫が大きくなっている間に僕は大阪に戻ったのか、はたまたしばらくは実家で飼っていたのか。それとも母親が里子にでも出したのか。

写真を見て忘れていた記憶の断片が蘇ったが、この出来事は本当にあったのだろうかとも思う。

今度、母親に会った時に「そういや、昔家に猫がね・・・」と聞いてみよう。