山を登ってくる人の声

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南アルプスのとある山での話だ。

行きたかった山も巡りテントで一泊を過ごしたあと、ほくほくと充実した気持ちで下山していた。

登りと違い、下山は焦りもなく緊張も緩む。しかしそれゆえに山での事故は下山中に多いと聞く。油断が生まれるということだろう。

そういったことは認識していたので十分気をつけて山道を下っていた。

頂上から下山口までちょうど中間をすぎたあたりだった。

休憩にちょうど良い広さの空間と腰をかけるのにぴったりの木があったので僕は一服することにした。

午後2時すぎくらいだっただろうか。天気も良く、ああ今回の山行も楽しかったなあ、なんて感慨にふけっていた時だ。

下山する方向、つまり下から声が聞こえた。

ジグザグのようになった登山道では木に隠れて姿は見えないが、声や鈴の音が先に聞こえてくることはよくことだ。※鈴は熊よけのためにつけている人は多い。

声の感じでは男女が混ざった3,4人くらいのグループのように感じた。

僕は座ったままでグループが過ぎるのを待っていた。

しかし一向に下から登ってくる姿は見えない。そういえばもう声も聞こえない。

思っていたより登りの道が離れていたのかな?と思い、僕はザックを背負い直して再び下山を開始した。

しかしその後、誰ともすれ違わなかった。

下山口のバス停にたどりついた時は夕刻近くになっていた。

確かにグループの声は下から聞こえた。下山の道は一本道で別のルートへ行くこともできない。

つまり僕とすれ違わないという事はありえないのだ。

それによく考えるとあの時間帯、あの場所で登ってくる人と出会うのもちょっと疑問だ。

山では基本、遅くとも午後3時くらいまでには山小屋に着くようにするのが山の常識であろう。登りであの時間にあの場所だと山小屋に着くのが確実に夜になるはずだ。

今でもあの時の声は何だったかは不明である。何を話していたかまでは聞き取れなかった。しかし、あれは楽しそうな声だった。