アルプス一万尺でアルプス踊りを踊った話

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あれはいつだったか。

その日は夕方の会議が終わって山の師匠と飯でも…という事になり、モツ鍋をつついていた。

当時の僕はまだ山に登り始めて三ヶ月くらい。山と言っても東京近郊の低山しか知らないくらいのど素人だった。

でもこれから嵌っていく最中にちょうどさしかかっていた頃だ。

山好き二人が集うと必然的に会話は山の話になる。

そんな中、師匠は酔っぱらってアルプスの話をしだしたのだ。

ちなみにその時の僕はアルプスといわれても北、中央、南アルプスの違いも分かっていなかった。

 

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いるらしい。魔物が。

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そこ一緒みたい。

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確か小学校の音楽の授業で習った記憶がある。

歌に合わせて二人向かい合って手拍子をするやつ。友達とどれだけスピードを上げれるかを競っていたのが懐かしい。

たしか子ヤギの上でなぜか踊だす不思議な歌だったと記憶している。

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子ヤギじゃない?小槍?こやり?KOYARI?

詳しく聞いてみると、北アルプスに「槍ヶ岳」っていう有名な山があって、その頂上の横に「小槍」っていう突起?岩?山?があるとの事。

小槍と

その小槍の高さがだいたい標高3000m。

一尺(いっしゃく)という単位が約30cmとしてそれで約3000m、つまり一万尺というわけらしい。なるほど。

あの歌はその一万尺の高さの小槍という場所で踊っている様を表した歌だという。

そんなの知らなかった。

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それ以来、僕の手帳に書かれた死ぬまでにやる事リストには

「小槍の上でアルプス踊りを踊る」

という項目が追加されたのだ。

 

小槍に登れるチャンス。

モツ鍋の日からあれよあれよという間に二年が過ぎていた。

僕も色んな山へ登り、少しだけ山の経験が増えていた。もちろん北アルプスと南アルプスの区別もつくようにもなっていた。

そんな時、ネットで山の情報を調べていたら「小槍クライミング」という文字を見つけたのだ。

思わず前のめりでよく調べてみる。

調べた結果をざっくりいうとクライミングの経験がないド素人でもガイドさんが小槍に登らせてくれるアクティビティの案内らしい。

これはぜひ参加せねば!と意気込んでみたもの、ネットで見た情報は去年のものだった。

こまめにチェックするも今年の募集案内がなかなか出てこず、もう今年はやらないんだ、と諦めていた。

もともと今年のお盆は憧れだった槍ヶ岳に登ろうと計画を立てていた。昨年の秋に成し遂げられなかった表銀座コースと呼ばれるルートから槍ヶ岳登頂のリベンジを果たすためだった。

しかし、なんと山行二日前!

山荘のブログで今年も小槍クライミングをやっている事を師匠から教えてもらってしまった。

これはもう参加するしかねえ!

大慌てで計画を練りなおす。

この山行計画を立てるという行為はかなり楽しいものなのだが、バスの時間を調べたりとなかなか時間がかかるものだから焦った、焦った。

どうやら当初予定していた表銀座ルートの燕岳経由だと時間的に小槍クライミングの参加には間に合わない。

ならば別のルート、上高地からのピストンにするとどうだ?

おお!これならいける!時間が作れる!

 

しかしバスに乗る前から緊張してドキドキしていた。

本当に僕は小槍で踊れるのだろうか…。というかそれ以前に小槍に登れるのだろうか…。

経験と言えばスポーツジムでのボルダリング体験が一回あるだけんなんだけど…。

まあ、行ってみてダメだったらそれはそれで。

覚悟を決めた。

 

いよいよ槍ヶ岳へ向けてスタート

上高地へは新宿から直行の夜行バスが出ている。

緊張もどこへやら。どこでも寝れる太い神経が密かに自慢だが、今回はさすがに緊張してあまり眠れなかった。

朝5時半、上高地へ到着。バスを降りてみるとザーザー降りの雨。まさに暗雲立ちこめているではないか。

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まあ、天気予報で雨なのは分かっていたけど。

まあ、山に雨はカレーに福神漬くらいつきものだ。それに午後からは雨もやむはず。

レインウェアを着込んでゆっくり歩き出した。

地図

今回は槍沢ルートという上高地から槍ヶ岳を往復するコースだ。

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避暑地である上高地は登山客以外の観光客も多い。

上高地から分岐地点となる横尾までは約三時間。平坦な道が続くので脚をならすのにちょうどいい。

たいていの山は最初と最後がやたら急登という持論があるのだけど、このルートはイレギュラーだな。

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明神で少しだけ休憩して歩き続ける。

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やがて横尾山荘という小屋についた。

ここから橋を渡れば涸沢経由の穂高方面。

今回は槍ヶ岳を目指すのでこのまままっすぐ進み槍沢方面へ。

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天気といえば晴れたと思ったらまた降ってきたり。

優柔不断な天気と同様、レインウェアを脱いだり着たりがかなりめんどくさい。

さほど急登もなくぐんぐん歩いてやがて槍沢ロッジへ到着。

雨を凌いで休憩を入れる。昼食は上高地で買っていたおにぎりとカロリーメイト。

全く余談だがカロリーメイトって確か僕が小学校だか中学校の時に発売されたのかな?当時これはダイエット食品だと勝手に思い込んでいた。全く逆のものなのに。

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雨も上がり天気が回復してきた。沢沿いの道は涼しくて気持ちいい。

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しかし霧が凄い。

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山の上のほうは何も見えない。

しばらく歩くと雪渓に出くわした。念のため言っておくが今は八月です。

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すれ違う人が皆、「雪渓が溶けて危険だから気をつけて」とアドバイスをくれる。どうしたんだろう。

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実際にその箇所に行くとあーこりゃ思ったより凄い。

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反対から見たところ。雪の下がぽっかりと空洞になっているのが分かるだろうか。

ずっと下見てトーレース(先人の足跡)だけを頼りに歩いてたらズボって落ちるかもね。それにしてもすれ違う人皆教えてくれた。親切。

雪渓を越えてしばらく歩くと遥か遠くに槍ヶ岳の穂先が見えた!あと少し!

と思ったら甘い。

進めど進めど一向に槍ヶ岳が近づかない。

こりゃたぬきに化かされてるんじゃなかろうか、ってくらい近づかない。近くに見えるがスケール感が狂っているので実際にはまだまだ距離があるという事がある。山あるあるである。

結構疲れがでていて思うように脚が動かない。途中で何度も休憩を挟んでしまう。

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しかし、へとへとになって後ろを振り返った瞬間ってだいたい絶景でいつも嬉しびっくりさせてくれる。

ひたすら、ひたすら登りつづける。もう少し。

最後にこんなきつい登りが待っていたなんて。

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もうすぐ!けど実際歩くと遠い!

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やっとの事で槍ヶ岳山荘に到着!さすがに息が上がっていた。

予定では今夜はここにテントを張る予定だった。

しかしすでにテント場はいっぱいで埋まっているとの事。

確かに僕のスローペースで到着が遅かったからしょうがない。

ここから30分ほど下れば殺生ヒュッテという小屋がありそこでもテントは張れる。

しかし下りるという事は明日もう一回登ってこなければいけないということだ。しかももうすでにくたくただ。このまま動かずにここに泊まりたい…。

いっそテント泊をやめてこのまま槍ヶ岳山荘に泊まるか、殺生ヒュッテへ行き、テントを張るか。う〜ん、どうしよう…。

かなり迷ったがやっぱりテントがいい。明日のクライミングの予約の確認だけして下りる事に。

くううっ、ゴールしたと思ってからの歩きは精神的にきつい。

今夜は一旦テントに泊まります。

殺生ヒュッテは岩場の中にテント場があり、基本的に地面がゴツゴツしている。寝るときの事を考えるとできるだけ平らな場所がいいのだが、良い場所は既にテントを張られていて場所を探すのに少し苦労した。

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霧の中で幕営。

晩ご飯のカレーをぺろりとたいらげテントに転がり込む。

テントの中っていつもワクワクする。ライトをぶら下げて文庫本を読む。

星空を期待していたが今夜はあいにくの曇り空。全く星は見えず。

さすがに疲れていたのだろう。気がつくとすっかり眠りに落ちていた。

翌朝、夜明け前に起きて殺生ヒュッテから日の出を拝む。良かった晴れた。

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山での日の出はいつも神々しい。

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朝日を浴びる槍ヶ岳。この山はかっこよすぎる。

いっぱい食べていっぱい寝たのでやたら元気。子供みたいだ。

昨日あんなにしんどかった殺生ヒュッテから槍ヶ岳山荘までの登りが今日は全然平気。あっという間に山荘へ着く。

ガイドさんとの待ち合わせは7時。あと40分くらいある。

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山荘はすでにストーブに火が入っていた。

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ココアとマフィンを買ってゆっくり待とう。

いかん。ドキドキする。

そして約束の7時となった。

 

小槍へのクライミング

小屋の前でガイドさんにハーネスをつけてもらい、クライミングについて色々と説明を受ける。

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出発前。かなり緊張しているので5歳老ける。

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これが小槍。このてっぺんまで登るという。本当に!?

まずは小槍の下までいかなければならない。

通常の槍ヶ岳山頂に行く道ではなく、脇の崖になっている巻道に入って行く。もちろん誰も歩いてはいない。

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結構、いや、かなり危険な道なのでガイドさんがロープでつないでくれている。

まだクライミング始まってもいないのにこの道がやたら怖い。

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ところどころで脚がすくむ。だって踏み外したら多分死ぬもん。

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いや、こええええっすううー!!

ひーひー言いながらやっと小槍の下に到着。

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この日は珍しく先行のパーティーがいたのでここでしばらく待機。

さて、段取り的にはまずはガイドさんが登る→上から僕をロープで引っ張りながら僕も頑張って登る、を繰り返す。以上。シンプル。(もちろん途中途中で安全を確保しながらね)

ガイドさんはするすると登って行く。この期間は毎日三往復くらいしてるらしい。すげえ。

次は僕の番。いよいよ。

ピンと張られたロープにとても安心感がある。

とはいえ…、怖いもんは怖い。

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写真で見るとイマイチ高度感が伝わらなくてちょっと悔しい。

引っ張ってもらってるとはいえ、基本的には自分で手をかけ、脚をあげて登らなければならない。これがなかなか…。

どこをつかめば良いのか、どこに足をひっかければいいのか・・・。

ガイドさんだったらするりと登れるところを苦労して時間をかけながらなんとか登る。

上から見た

この位置で三分の一くらい。

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ふえ〜、まだまだあるな〜。

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しっかり確保。

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ど、どこに足乗せればいいんですかー?

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ちょっと動けないっす!無理っす!

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ちょ!?下、見ちゃいました!怖いっす!

このあたり参加した事を少し後悔もしていた。

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おっ、でも結構登ってきたぞ。

頂上

よっこらしょーっと!

頂上2

なんだかんだで無事に頂上に着いたー!

あっさり登っているように思えるかもしれないが実際、ガイドさんのロープが無ければ三、四回は確実に落ちてます。

さて、無事に着いたはいいがここでアルプス踊りを踊らなければならない。

てっきり一人きりだと思っていたが他のパーティーの方もいる。しかもこの小槍の頂上って槍ヶ岳の頂上からもよく見えて声も聞こえるくらいの距離だ。

つまり、、、照れてしまった。

と、まあ、恥ずかしがって声が小さくて歌は聞こえないし、見かねて隣の方は一緒に踊ってくれてるし。なんか色々と公開するのも申し訳ない。

しかし、それでもなんとか念願は果たせたのだ!

もつ鍋屋さんで何気なく言った言葉がこうして現実になっているのが自分でも不思議だ。アルプスの位置関係も知らない人間だったのがこんな所に立っている。人間やれば出来るってことだ。

 

さあ、当たり前だが登ったら下らなければならない。

下りは懸垂下降という降り方。

これは知ってる。よく強盗とかが高層ビルで逃げる時にやるあれだ。

先にガイドさんが下りて続いて僕の番。

ついた

うおおお、最初の一歩を踏み出すのが凄く怖い。大丈夫なのか、これ。思わず女の子みたいに座ってしまう。

最初の一歩がなかなか踏み出せない。

しかし、いざやってみるとすぐに恐怖は楽しさに変わった。

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ちょっと余裕が出てきている。

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登ってきた苦労は何だったのか、と思うくらいスルスルと下に。あっという間にスタート地点へ戻る。

感無量だ。槍ヶ岳山荘まで戻りガイドさんとがっちり握手をして終了した。

それにしてもガイドさんがいるという事の安心感は凄かった。どんなに足を踏み外しても大丈夫だという安心感が確かにあった。

クライミングの経験もないのにまさかあの時のモツ鍋屋さんでのふとした会話が二年越しに叶うと思っていなかった。

人間ちょっとの勇気を出してやればなんとかなるもんだ。

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あ、そういえば槍ヶ岳自体にはまだ登っていなかったのでこの後登ったがもう高いところが怖いという感覚が全くなかった。不思議なもんだ。

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