怒れる店員さんたち

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僕は常々、居酒屋ランチが最強だと言っているが、先日も近所の焼き鳥屋さんで昼飯を食べていた。焼き鳥屋さんだからそのままなんだけど、焼き鳥丼が安くて美味しい。休日のお昼はよく行くお店だ。

ある日、僕はいつものように焼き鳥丼を食べていた。

そのお店は、店の外に食券機が置いてあり、食券を買ってから店内に入るシステムになっている。

若い女の子が「両替えお願いしま〜す」と店内に入ってきた。食券機は1000円札までしか使えないらしい。

両替えをしてもらった女の子は食券を買うために、また店の外へ出て行った。

ところが、しばらくたっても一向に女の子は店内に入ってこない。店員さんが不思議に思って外へ見に行った。

ドタドタと足を踏みならして帰ってきた店員さん。

「ちくしょー!両替えだけやられた!」大きな声を出して憤慨している。

美味しいのであまり気にしていないのだが、このお店の店員さんは基本的に皆ヤンチャな感じなのだ。

そこへちょうど奥から店長的な人がやってきて店員さんから両替だけして逃げた?女の子のことを聞く。

店長さんらしき人は「なにー!!!」とあまり日常生活で言わないセリフを言うやいなや、表へ駆け出した。ちょっと聞いただけで状況を把握し、すぐさま走り出す決断の早さはさすが店長。

しかし当然女の子はすでにどこかへ行ってしまっている。空振りで戻ってきた店長。「とんでもねえ野郎だ!」と店員一同悪態をつきはじめた。

僕は丼を食べながら、その一部始終を見ていた。

なんとなく気持ちは分からないでもないが、食い逃げや実害があったわけではない。ただ両替えをしただけだ。そこまで怒ることだろうか・・・。

それよりお客さん(僕)の前で怒るのってどうよ?という気持ちになっていた。そういうの普通に怖いのだ。

焼き鳥を箸で持ち上げ、なんだか前にも似たような出来事があったなと思い出した。

 

 

当時、会社の近くに住んでいた。自転車で通勤していた僕は帰りにちょくちょく同じラーメン屋さんに寄っていた。九州系のとんこつを少しマイルドにしたタイプのラーメン屋さんだった。

劇的に立地が悪いのであまりお客さんは入っていなかったが、それが逆に僕にとっては居心地が良かった。もちろん単純にラーメンが美味しかったというのもあるが、夜遅い時間まで開いていたというのが通っていた主な理由だ。

お店の前には店主のものと思われるボックスカーがいつもあった。窓はフルスモーク。車の後ろにはチーム名が書かれたステッカーが貼られていた。なんのチームかは分からないが決してフットサルとかOBバスケではないことは確かだ。なにはともあれ。

その店主さん、見た目はサンドイッチマンの伊達さんにそっくり。街ですれ違うならば絶対目を合わせたくないタイプだ。

しかしお店の居心地がよくてラーメンが美味ければ僕はなんでもいい。なんとなくよく通っていた。

何回目かの訪問の時、バイトの女性が頼んでもいないコロッケをテーブルに置いた。

「にいちゃん、よく来てくれるからよお〜。サービスや」

厨房から伊達さんがニッと笑う。どうやら常連に昇格したらしい。

ちょっと嬉しかった。しかし仲良くなりすぎるとよく分からないチームに誘われるかもしれない。それは避けたいので適度な距離を保たないとな、なんて思っていた。

そんなある日、残業で遅くなった。

この時間だったらあそこしか開いてないな、といつものようにラーメン屋さんへ行く。

ガラガラと横開きのドアを開ける。

びっくりしたようにハッと振り返る店主とバイトの女性。

店主の表情は読み取れないがバイトの女性は泣いていた。

「・・・ら、らっしゃ〜い」

「い、い、いらっしゃいませ、えっ、えぐっ」

泣きながらいらっしゃいませを言われたのは初めてだ。

他にお客さんはいない。一瞬で察知した。原因はわからないが絶賛喧嘩の最中だ。

すでに足は店内に入ってしまっていた。思えばこの時帰ればいいものをなぜか僕は席に座ってしまった。

涙を拭ってバイトの女性が注文を取りに来る。頼んだのはいつものラーメンセットだ。

女性は店主に注文を告げ僕のラーメンが作られ始める。

無言のピリピリした空気。油断すると何かが張り裂けそう。幸いにテレビからはニュースが流れていたので僕はぼーと眺めることに専念した。

ラーメンセットが運ばれてきた。割り箸を割って食べ始める。

「だ、だって、て、店長が言ったんじゃないですかあっ!」

「ばかやろうっ!俺が言ったんじゃねえっ!!!」

あっ、これ続くんだ。

どうやら色恋沙汰ではなさそうだが、この店主と女性に何かしらの齟齬があり、こんなことになっているのだろう。

ラーメンは相変わらず美味い。ずるずると麺が進む。

店内のBGMは罵声と怒号。TVでは国会での失言についてコメンテーターが何か言っている。

「おまえがっ!!!お前が悪いんだろうがっ!!!」

「なんで!なんでそんなこと言うんですかっ!!!えぐう」

店主が顔を真っ赤にして怒鳴りつけるが女性も負けてはいない。ぐしゃぐしゃに泣きながらもきちんと反論をしている。

とんこつラーメンは半分くらいそのまま食べてから高菜と紅生姜を入れるのがマイルールだ。やはり高菜は美味い。

「出て行けっ!!じゃあお前今すぐ出ていけよっ!!!おらっ!!!」

「出ていきませんっ!!えぐっ、悪いのは店長じゃないですかっ!!!!」

いつ「なあ、にいちゃんもそう思うやろ?」と巻き込まれないかとヒヤヒヤしていた。しかし心配すると同時に僕は少し感心もしていた。

客は僕一人とはいえ、第三者がいる空間でこんなにも自分をさらけ出せるってなんだかすごい。僕は人前でそんなに感情を表に出せる自信がない。

内容は全然わからないけど分は店主にあるようだ。そりゃ強いよ。伊達さんだもん。僕はどうしても泣いてる女性に同情してしまう。しかし申し訳ないが事情もわからず間に入る勇気が僕にはない。

ラーメンを食べ終えた。いつもなら替え玉をお願いするのだが、さすがにこの張り詰めた空気に長居はできない。

怒鳴り合いが途切れたタイミングを見計らい、わざとガタッと音を立てレジに向かう。

お金を払い引き戸を開けて外にでる。思わずホッとため息が出る。

「グスっ、あ、ありがどうございまじた・・・」

「ありやしたー」

そこはちゃんと言うんだ。

店の外で自転車のスタンドをあげてまたがった時、怒鳴り声が外まで聞こえてきた。

接客ってなんだろう。

なんとなくそれ以来そのラーメン屋さんには行っていない。

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