剣岳に登った話(前編)

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2015年9月4日金曜の22時。

皇居外周の竹橋にある毎日新聞本社の1階ロビーは色とりどりのウェアに身を包んだ登山客で埋まっていた。

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ここから各方面の山々へ向かう毎日アルペン号という夜行バスが出るためだ。

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ザックの蓋はきちんと閉まらないのを無理矢理閉めている。

いつか登りたいと思っていた剣岳へ向かうためにここでバスを待っている。そのいつかは今日だ。

明日、明後日の山行の事を考えると緊張してドキドキしてきた。意味もなくトイレに何回もいく。

 

剣岳はクライミングなどの特別な技術を要しない、いわゆる歩きだけのルートでは日本一危険度度が高いと言われている。ドキドキしないわけがない。

もちろん本やネットでカニのタテバイやヨコバイといわれる危険箇所については嫌というほど調べているが、写真で見ただけではやっぱり分からない。分からないから想像する。

「なんだ、意外に簡単じゃん」っていう良い方の想像と、「冗談でしょ、コレ…」っていう悪い想像。どちらもする。いや、頭が勝手にしてしまうのだ。
できるだけ良い想像のほうに期待をしつつ僕は一人静かに座り込んでバスの発車時刻を待つ。

バスを待っている人たちを見渡すとテント泊の人があきらかに少なく感じる。テントの人はザックの大きさとだいたいマットをザックの外に付けているから一目瞭然なのだ。

これは、もしかして・・・。

昨年、途中で断念した表銀座と同じパターンかと不安にかられる。テント泊に向いてない天気を無視してひとりぼっちでテント張って「あの人寒そう・・・」とテント横を通る人に言われた記憶が蘇る。うん。いいんだ、さらされても。泣いたりしない。防寒も万全に準備はしてるし。

基本的にどこでもどんな状況でも寝れるタイプなので、夜行バスはとても便利だ。

しかし、いつも気がかりなのはトイレの問題。たいていの山へ行く夜行バスはトイレがついていないバスが多い。できるだけバスに乗る前は水分を取ることを調整し、いざという事がないようにひどく気を使う。それだけが難点だ。

バスは時刻を少し遅れて竹橋を出発。すぐに眠りに落ちる。

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何度か高速のパーキングで休憩がある。

トイレをすますのと長く椅子に座り続けて同じ姿勢で固まった身体をほぐすために必ずバスの外に出るようにしている。

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パーキングや道の駅はなぜかテンションが上がるので大好きだ。これが山へ行く時でなければご当地グルメを満喫しているところだが体調の事などを考えここは我慢。

運転手さんのアナウンスで目が覚めるとすでに夜は明けていた。

室堂へかなり近くまで来ているらしい。バスがスピードを緩める。ふと見ると道路のわきに猿がたくさんいてバスを睨むように見いやっている。

窓から見える壮大な山々。すごい。バスに乗っている時点で森林限界を超えているんだ。剣岳だけは特徴的にグレーのギザギザなのですぐわかる。あれに登るのか。マジか。

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やがてバスは室堂に到着。このバスはすべて登山者用のバス。

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まずはそのロケーションに驚く。

ホテルも隣接していてバスターミナルはそれなりに大きな建物である。しかし立山など主要な山々に取り囲まれているおかげで人工物であるこの建物がひどく非日常な空間に思える。

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ターミナルから外に出るとすごい人。室堂には一般の観光客も訪れるがこの朝の早い時間帯では皆ザックを背負った登山者だ。

立山、剣岳をはじめ、ここ室堂バスターミナルが各山々への起点となるからだ。登山客はそれぞれ思い思いに準備を始める。
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本日、ちょうど室堂では立山フェスというものが開催されおり、各登山メーカがブース出展をしていた。
ゆっくり回って見てみたいところだが、今日はすぐに出発。

剣岳への山行は本来なら2泊3日くらいでゆっくりいきたい所だがあいにく休みは二日間。

一日目はここ室堂から途中の剣沢テント場まで。

二日目の朝早くから剣岳を登り、昼すぎに室堂へ戻ってくるピストンの計画だ。

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さて、靴ひもを締めて歩き出す。時刻は9時前。

やがてどこからかすぐに硫黄の匂いが鼻に突く。

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硫黄ガスが噴き出しているのが良く見える。

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ここ室堂は温泉地でもあるのだ。

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道は舗装されていて少し違和感があるくらい。快晴の中ぐんぐん歩く。

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ミクリガ池が見えた。

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今日は風もなかったので綺麗に逆さ立山が見えた。

なんて気持ちの良い場所なのだろう。改めて北アルプスの山々に圧倒される。

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確か血の池地獄なんて物騒な名前がついていた池を通る。

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団体さんのハイカー達。

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雷鳥沢のテント場。素敵なロケーション。景色が壮大すぎる。

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雷鳥沢のキャンプ場を横目に橋を渡ればいよいよ剣御前小舎という山小屋へと向かう急登となる。

これが中々にしんどい。しかしまだまだ歩き始めたばかりだ。

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途中、休みを入れゆっくりのペースで登る。

今日の行程は時間もたっぷり余裕があるから急ぐ必要はない。

それにしても久しぶりにこんないい天気。明日の剣岳アタックも期待できるのではないか。

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やがて剣御前小舎に到着。ふうっ、ここで休憩。

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ここからの眺めが半端なく良かった。すごいな立山。

さて、このまま下って剣沢のテント場へ行ってもいいがすぐ近くの別山という山を経由してテント場まで行こうか。すぐだし。

それに稜線歩きが楽しめそう。

という事で迷わずさらに登る方を選択。迷った時はしんどい方を選べとじっちゃんが言ってた。迷ってないけど。

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すぐに稜線に出る。

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ほら、思った通りやっぱり正解。超気持ちいい道。

雷鳥を探すが雲雀しか姿は見えず。稜線をたっぷり堪能したところで急な斜面の道を下って剣沢のテント場へ。

テント場へ到着。時刻は12時半くらい。とにかく腹が減った。テントを立てたらすぐに昼飯にしよう。

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開放感あふれる剣沢のテント場。かなりの数のテントが張れそうだ。これならピークのシーズンでもいっぱいで張れない、なんてことはよっぽどの事が無い限りなさそうだ。

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端っこのいい場所が空いてた。明日の朝はかなり早く行動するので出来るだけ他の人とは離れた場所にしたかった。

朝の出発の準備ではどうしてもガサゴソと音が出ちゃうので気を遣いたいところ。

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昼は袋ラーメン。あんまり見た事無い山っぽいラーメンがなぜか近所のピーコックで売ってたのでチョイス。ハムを入れてなんちゃってチャーシュー麺に。

棒ラーメンも良いが、いつもなんとなくスープがどろっとなる気がするので普通の袋ラーメンの方が好き。

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剣岳をバックにスープまで腹に入れる。

知ってただろうか。山で食べるラーメンは三割増で美味くなる事を。

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すぐそこに剣岳がそびえている。圧巻の一言。

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と、思ってたらすぐに霧で見えなくなったり。天気はいつもツンデレだ。

本日はもう行動しないのでテントに寝転がり持ってきた文庫本を読む。

僕は山に持ってくる本をなぜかホラーを持ってきてしまったりとチョイスをミスっている感もあるが今回はちゃんとしたのを選んだつもり。

新田次郎さんの「岩の顔」という山岳短編集だ。山で読むのにふさわしい。

ごろんとなって本を読む。なんと至福の時間ではないか。

しかし、このパターンはいつものごとく・・・

 

やはり。気がつくと寝ていた。今何時だ?と慌てて腕時計を見ると夕方の5時過ぎ。良かった。まだ日は暮れていない。

明るいうちに夕ご飯を食べておかないとなんとなく作るのが面倒くさくなる。

夕食はレトルトカレー。これも山で食べる物としては鉄板で間違いなく美味い。まあ、なんでも美味しい便利な舌を持ってるんだけど。

ライスにお湯を入れて待つ間にレトルトを暖めておく。

また、カレーを暖めたお湯はそのままコーヒーに使う。

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3個百円くらいのレトルトカレーがこんなにも美味いとは。山マジック。

そうこうしているうちにあたりはどんどん暗くなっていく。

どうやら今日は夕焼けは無しみたい。残念。

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すっかり日は落ちて夜の闇に包まれる。

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テントのカラフルな灯りは凄く幻想的で大好きな風景。

小屋泊まりでなくテントの楽しみは多い。

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本日は雲っているので星は見えず。これも残念だが致し方ない。

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夜の剣岳。左の灯りは剣山荘という剣岳に一番近い山小屋。

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おっ、右のラインは流れ星かな?いや飛行機か。いや、飛行機じゃないわ!ぶた太郎よ!

「ぶた太郎じゃないよ!とん太郎だよー」

と声が聞こえたとか、聞こえなかったとか・・・。

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そろそろ寝る事にする。明日は二時半くらいにはテントを出る予定だ。

目が覚める。あまりに深く寝た感覚だったのでしまった!寝過ごしたか!と思ったがまだ22時。

あれ?少ししか寝ていない。その後もなぜか少し寝ては目が覚めるということを繰り返す。

やはり緊張しているのだろうか。

やっと腕時計のアラームが鳴り、朝食のランチパックを食べる。

ランチパックは山に持ってくると気圧で袋がはち切れんばかりにパンパンに膨らむ。

思ってたより寒くない。コーヒーを胃に流し込んでレインウェアなど必要な物だけをザックに詰め込んでいざ剣岳山頂を目指し闇の中を静かに歩き出した。

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