剣岳に登った話(後編)

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前編はこちら

ヘッドライトの灯りだけを頼りに暗闇の中を歩き出す。

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天気はよくわからないが少なくとも雨が振っている訳ではない。しかし、星がひとつも見えないってことはかなり曇ってるのだろう。

まずはテント場からほど近い剣山荘へと向かう。
目で見ているとすぐそこのように感じていたが、実際に歩くとこれがなかなかたどり着かない。

山ではよくある感覚。景色が壮大すぎて目で見える距離感が狂っているのだろう。

ペンキやスプレーで岩に描かれた目印を頼りになんとか剣山荘に。休憩は取らずにそのまま山荘を通過する。

今日は午後から雨の予報なので帰りの事も考えると結構なスピード勝負なのだ。
いよいよ登りの道となる。
IMG_3780いきなり軽い鎖場に出くわして思わず苦笑い。

もちろん色んな事を覚悟して来たがこんな始めから鎖とは。

しかしこの鎖場は全然危険ではなく、むしろ鎖を使わない方がすんなり登れるくらいだ。

ざれた急登をゆっくり登って行く。

なんだかポツポツと小雨がふってきたようだが、気づかないフリをして登り続ける。

かなり登った。さすがに小雨レベルではなくなってきたのでレインウェアを上下とも着込みザックも濡れないようにカバーをかける。これで万全だ。しかしこの時点での雨は正直想定外ではある。

岩が滑るのが怖いのだ。

道はさらにごろごろとした岩となってきた。

慎重に足を踏んで歩かないと落石を起こしそうだ。

坂を登りきると一服剣という見晴らしの良い場所に出た。まあ、見晴らしが良いと言ったが実際は真っ暗だ。
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ただ、遠くに長野の街並の灯りがキラキラしていて思わず見とれてしまう。

ここから道はさらに険しくなる。というかこれは果たして道なのか。

 ひいひい言いながら前剣にたどり着く。

なんだかヘッドライトの灯りが弱くなった気がする。今回に備えて電池も新品に変えたのになぜだ?

それに視界もぼんやりしてきた。目に異変か?と思ったがどうやらいきなり霧が濃くなっただけらしい。
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霧に包まれるのは本当にあっという間だ。気がつくと1m先くらいしかライトが照らしていない。

どうやらこの場所からいきなり急な下りになっているみたいだ。
いや、下りというよりは岩を降りる、と言った方が正しいか。

どうしよう。さらに雨も強くなってきた。この先の道は今よりさらに険しく危険な道のはず。

この状態で進むのはちょっと命に関わるのではないか?引き返した方がよくないか?

しばらく身動きができずにじっと考えていると後ろから来た人が僕を抜いて行った。

おー、行くのか。すげえな。う〜ん。マジでどうしよう・・・。

その時に急にライトの灯りがハッキリしてきた。霧が晴れたのだ。

うん。これならなんとか行けそうだ。よろよろと岩を降りる。

IMG_3786やがてあたりがだんだんと明るくなってきた。日の出だ。

IMG_3801しかも雨も止んだ。

ライトはもう不要だ。なんだか不安がだいぶやわらいだ。

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 前剣を越えて第5の鎖に出る。この鎖の時点で崖だ。もし落ちたら、、、。
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真ん中左あたりに黄色いザックの人がいるところが第5の鎖を越えたあたり。その先にカニのたてばいが待ち構えている。

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余裕が無くてカメラもブレブレ。

地図の案内か、読んだ本かは忘れたが、この第5の鎖で恐怖を感じるようであれば引き返した方が無難だろう、と書かれていた。

勇気を出して鎖を越える。

いよいよ来た。

IMG_3808カニのたてばいと呼ばれる難所だ。

ふああ、マジか。くる前に読んでた本には落ち着いて確実に行けば大丈夫、と書いてあったがほんとか?ちょっと疑うよ。

それでも行けなくは無いはずだ。
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これ登ります。

 

やっとこやっとこ苦労しながらなんとか無事に登りきる。(実際はやっとこなんて可愛いもんではない)

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ここから先はザレた登りがしばらく続く。

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登りきってやっと頂上へ着いた!
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ちなみにこのプレートは割れています。

遮る物が無いので風がダイレクトに吹いてくる。はっきり言って寒い。降りよう。というか早く安全な所まで降りて安心したい気持ちが強い。

早々に頂上を後にする事に。

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・・・分かってはいたが下りの方が恐怖度はアップする。
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行きはよいよい、帰りは怖い。

下りではカニのよこばいという箇所をクリアしないといけない。これも有名な難所。

 

カニのよこばいはなんと表現すればいいのだろう。

崖に対して横に鎖がはっていて、足は足先をのせるちょっとしたでっぱりしかない。下から見ると崖にへばりついているような感じでそのまま横に進む、という場所だ。分かるかな。

よこばいの写真はない。もうカメラなんか構える余裕は全然ない。自分で息づかいが荒いのが分かる。しんどい方のハアハアではない。

恐怖から来るハアハアだ。ジェイソンがすぐ近くにいて隠れている感じ。なんとか見つからずにやり過ごしてホッと安心したところで後ろんは斧をふりかざした・・・ってそれダメな方だ。

マイナスのイメージを持ってはいけないと自分に言い聞かせるが身体は正直で膝はガクガクと震える。

それでもクリアしないと帰れないんだ。後ろ向きになって足を下にのばす。しかしなかなか足が崖の出っ張りに乗らなくて焦る。

もし今鎖をつかんでいる手が離れたら崖下まで真っ逆さまだ。

足が乗った。身体が安定する。しかし恐怖は変わらない。このまま横に移動しなければならないのだ。慎重に慎重に。

時間はかかったがやっとよこばいを抜けた。ほっとしたのもつかの間、目の前にあるのは垂直のハシゴ。まあ、これは大丈夫。

しかし気が緩みそうになるのをぐっと押さえる。よく山では実際に事故が起こるのは気が張っている危険箇所ではなく案外なんでそこで?という場所の方が多いと聞く。

せめて前剣を越えるまでは油断してはいけない。

振り返ると自分が登ってきた場所を皆が頂上へ向かっているのが見える。明るくなって改めて客観的に見ると凄い場所だな。
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カニのたてばい。少し混んでいる。

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多分、前剣を越えたところかな・・・。

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 普通の道でもちょっと怖い。

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慎重に慎重に歩を進めなんとかもう大丈夫、というところまでやって来れた。
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山荘見えた!

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無事に剣山荘まで戻ってきた。ここらでやっと気を抜いてほっとできた。
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もうすぐだ。
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やっとテント場まで戻って座り込む。テントからは剣岳が雄大に構えている。

本当にあれに登ったんだな〜。よく無事に帰ってこれたよな〜。

と感慨に耽っているのもつかの間、いよいよ雨が振ってきた。慌ててテントを片付ける。

考えようによっては危険箇所のところだけ雨がやんでたのはすごく運が良かったのではないか。

付近の山小屋はどこも満員だったそうなので、すれ違った人の数を考えるとこの日は剣岳の頂上を諦めた人もたくさんいたのだろう。

壮大な立山連峰。剣はしばらくいいけど他の山々をゆっくり縦走したいもんだ。

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