たこ焼きの思い出

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無性にたこ焼きが食べたくなることがある。

岡山から大阪に出た18歳の時。入居したマンションの一階は、おばちゃんが一人で切り盛りするたこ焼き屋さんだった。

基本的には持ち帰り。小さなカウンターに丸椅子が二つあるだけのスペースだ。

10個で200円。破格の値段に思えるかもしれないが、当時(今も?)大阪の住宅街には、こんな感じのたこ焼きやさんがいっぱいあった。

ある日聞いたことがある。

「おばちゃん、安すぎない?もっと高くても売れるよ」

「ええんよ、ここの家賃分くらいは稼げてトントンや。それに、たこ焼き焼いとったらボケへんやろ笑」

「ふーん。そういうもんなの」

たこ焼きは売れないと固くなって廃棄になってしまう。タイミングのいい時に買うと、固くなったたこ焼きを二つ三つおまけしてくれた。

安くてもしっかり美味しい。僕は、自炊がめんどくさい時や、そうでない時もかなりお世話になっていた。

 

ある夜、帰ってきて部屋の鍵をあけようとした時に気がついた。財布がない。落としたのだ。財布に部屋の鍵もつけていたので部屋にも入れない。もちろんお金もない。

どうしようもなくなって近くに住む友達に電話をした。とりあえず今夜は友達の家に泊めてもらい、明日管理会社にいくことにした。

寒い冬の日だった。事情を話し、たこ焼きやさんで友達が迎えにきてくれるのを待たしてもらった。

友達を待っていると、スッとたこ焼きが差し出された。

「えっ?今、お金ないよ」

「ええんよ、いっつも買うてもろとるからな」

そんなおばちゃんである。

財布を落としてものすごく凹んでいたのであやうく惚れそうだった。

 

ある日、マンションのゴミ捨て場に綺麗な椅子が捨てられていた。

だれか引越しでもするのだろうか。高いものではなさそうだが、ちゃんとしたパソコン用の椅子だった。

僕はすぐに拾って帰った。ちょうど椅子を欲していたのだ。

その夜、いつものようにたこ焼きを食べていた。

おばちゃんが口を開く。

「今日ね、椅子が捨ててあってねー。あとで持って帰ろうと思ってたらあっという間になくなってたわ」

僕は口の中のたこ焼きを吹き出した。

「熱いんやからちょっとずつ食わなあかんで〜」

僕は冷や汗をかきながらすぐに食べ終え、自分の部屋に戻った。

部屋には拾ったばかりの椅子があった。

 

その後、僕は引っ越した。結局、あの椅子は僕が拾って帰ったとは言えずじまいで。

おばちゃんはよく

「来年くらいにね、もう畳もうかと思うんよ」

と言っていた。

続けてほしいとは訴えるものの、それはおばちゃんが決めることだ。

そして引っ越してからは前に住んでいたところに行く用事もなく、おばちゃんがたこ焼きやを続けているのかも分からなかった。

しかし、2年前に大阪出張に行ったさい、たまたま近くを通った。

おばちゃんのたこ焼きやさんは当時のまましっかり営業していてホッとした。

東京は銀だこばっかりだ。しかし僕が求めているのはこれではない。

あのふにゃふにゃの柔らかいたこ焼きが無性に食べたくなるのだ。

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